業務委託で生成AIの利用を禁止する・条件付きで認める条項

受託者の生成AI利用を、契約でどう取り決めるか。禁止型と条件付き許可型の書き方と、起きやすい問題の型を、条文例と公的資料の根拠で整理します。

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全面禁止は翻訳や校正まで違反にしがちです。「AI」の定義と承諾の方式を決めて、守れる条項にします。

このページの要点

  • 禁止型は、入力の禁止、出力・派生情報の制限、承諾した場合の範囲の三点を一組にする。
  • 条件付き許可型は、入力情報の区分、学習されない条件、サービスの特定、出力の確認、申告を組み合わせる。
  • 「AI」の範囲と承諾の方式(個別・まとめて・ガイドライン掲載)を、条文に書いて決める。
  • 立場により条項の重さは変わる。守れる義務だけを書くのが原則。

このページの結論

  1. 生成AIの利用を禁止にするか、条件付きで認めるかは、現場で生成AIを使う場面があるかを確かめてから決める。確かめずに全面禁止にすると、翻訳や校正まで違反になる書面ができる。
  2. 禁止型でも条件付き許可型でも、欠けやすいのは「AI」の範囲の定義、入力そのものと出力・派生情報の扱い、承諾の方式の3点である。
  3. 条件付き許可は、入力情報の区分、学習されない契約条件、サービスの特定、出力の人の確認、申告の組み合わせで作る。依頼する側か受ける側かで、条項の重さは変わる。

先に決めること 禁止か許可かの前に、現場で何が起きているか

業務委託契約に生成AIの条項を入れるとき、最初に出てくる問いは「禁止にするか、認めるか」です。ただ、この問いに答える前に、確かめておくことが三つあります。受託者が実際に生成AIを使っているか、使うとしてどの作業か、そして発注者自身の側に外部サービスを使う前提があるか、の三つです。

生成AI(文章・画像・音声などを、指示(入力)に応じて作り出すAI。この条項では、外部の事業者が提供するサービスとして使うものを主に指す)は、いまや文章の下書き、翻訳、要約、議事録の作成、画像の生成など、ごく普通の作業の道具になっています。受託者が黙って使っているのか、使っていないのかが分からないまま「一切禁止」と書いても、実態に合わない条項になりがちです。逆に、使っていると分かっているのに何も書かなければ、秘密情報や個人情報が外部のサービスに渡る経路が契約の外に残ります。

公的な資料も、この順序を前提にしています。総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」第1.2版(令和8年3月31日)は、AIを使う事業者の取組事項として、個人情報や機密情報を不適切に入力しないことなどを挙げています。[1]あわせて、法令になくても、当事者間の契約でデータの利用が禁止されている場合があることに注意を促しています。[1]取引先から預かった情報を、受託者が生成AIに入れてよいかどうかは、その情報を預かったときの契約が許しているかで決まる、ということです。

このページでは、取引相手(受託者)の生成AI利用を取り決める条項を、禁止型と条件付き許可型に分けて見ていきます。ここで扱うのは、契約の実務で見られる書き方と、その書き方に起こりやすい問題の型です。AIを使って作った契約書の下書きに見つかった誤りの話ではない点は、先に断っておきます。なお、生成AIを提供する側の利用規約や契約は、別サイトの外部AIモデル・API依存サービスの規約で扱っており、読者の立場が異なります。

契約の実務で見られる2つの型と件数

点検の実務で、業務委託やNDA(秘密保持契約)で取引相手の生成AI利用を取り決めていた25依頼者分の記録を整理すると、取り決め方は大きく二つに分かれました。秘密情報などを承諾なく生成AIに入れることを原則として禁じる「禁止型」が9、利用を認めたうえで条件を付ける「条件付き許可型」が16です。この数は、確認できた範囲の資料で数えたもので、全体の傾向を示すものではありません。

型と件数

型件数依頼者数補足
禁止型9件9依頼者NDAが7、業務委託が1、創作系の取引先向け規約が1
条件付き許可型16件16依頼者利用を認めたうえで、条件を並べるもの

業務委託・NDAで取引相手の生成AI利用を取り決めていた25依頼者分の点検記録のうち(確認できた範囲の数え方)

禁止型の9のうち、NDAに置かれたものが7を占めます。つまり、禁止型は、相手から預かった秘密情報の扱いを定めるNDAに置かれることが多い型です。条件付き許可型は、実際に生成AIを使う作業が前提になる契約で、使い方まで取り決める型だといえます。

契約の実務で見られる書き方書き方と問題の型として

禁止型の書き方の骨組み(型としての整理)

禁止型の条項は、多くが三つの要素を一組で持っています。一つ目は入力そのものの禁止(秘密情報を生成AIその他の外部サービスへ入力・送信・アップロードし、または学習に利用させてはならない)です。二つ目は、出力された結果や、入力した情報から作られた要約・分析などの派生情報の利用の制限です。三つ目は、承諾を得た場合でも、入力できる範囲を限る定めです。

この三点が揃っていれば、禁止は「入れない」だけで終わらず、入れてしまった後の扱いまで契約でつながります。一つ目だけの条項は、入力後に生まれた派生情報の扱いが空白になります。

業務委託・NDAで取引相手の生成AI利用を取り決めていた25依頼者分の点検記録のうち(確認できた範囲の数え方)。禁止型9のうち、三つの要素を一組で置いていたものを中心にした整理

契約の実務で見られる書き方書き方と問題の型として

条件付き許可型で並べられていた条件の種類(型としての整理)

条件付き許可型の16依頼者分の記録では、「利用できる。ただし次を守る」という形が基本で、守る条件の種類は下の表のとおりでした。数は、その条件を置いた依頼者の数で、1つの契約が複数の条件を置くので重複があります。

16依頼者分の記録のうち、条件を置いた依頼者数(重複あり)

条件の種類(条件付き許可型16依頼者のうち)

型件数依頼者数補足
学習に使われない契約条件・設定のサービスに限る、または学習利用の有無を開示させる12件12依頼者最も多い条件
使うサービスを、合意したものや別紙・確認書・ガイドラインの一覧で特定したものに限る7件7依頼者サービスの特定
個人情報は匿名化・仮名化・マスキングする、または承諾を得た場合に限る7件7依頼者入力情報の加工と承諾
出力を人が確認・修正してから使う7件7依頼者確認義務
入力情報を三段などに区分する(入れてよい・条件付き・入れてはならない)3件3依頼者区分
利用の有無・範囲を納品時に申告し、記録を残す3件3依頼者申告・記録(詳しくは次のページ)
発注者が利用を禁止・停止する指示を出せる、または禁止した情報は入力しない3件3依頼者停止指示(詳しくは次のページ)

条件付き許可型16依頼者分の記録のうち。1つの契約が複数の条件を置くので、合計は16にならない

表を見ると、条件の中心は「学習に使われないこと」です。16のうち12がこの条件を置いていました。一方で、条件を満たしているかを確かめる手段に当たる「申告・記録」と「停止指示」は、それぞれ3にとどまります。条件は置いたが確かめる手段は置いていない、という組み合わせが多いことは、次のページ生成AI利用の申告・記録・停止指示・違約金の付け方で詳しく見ます。

禁止型 三点セットと、広すぎる禁止の問題

禁止型は、書き方が単純なので、一見すると問題が少なそうに見えます。しかし、点検の実務では、禁止型の条項にも次のような問題の型が繰り返し見られました。

承諾の方法が決まっていない

「事前の承諾を得た場合を除き」とだけ書かれ、毎回の個別承諾なのか、まとめての承認なのかが読めない。

契約の実務で見られる書き方

禁止の対象が広すぎる

編集ソフトのクラウド機能、翻訳、検索まで巻き込み、実際の作業では守れない条項になる。

契約の実務で見られる書き方

禁止が入力だけで終わる

出力・派生情報の扱いが空白で、入れた後に生まれた要約や分析が自由に使えるように読める。

契約の実務で見られる書き方

AIの利用を例示するだけ

目的外利用の例として「AI学習・解析」を挙げるだけで、AIを使った作業そのものへの規律にならない(NDAで1件)。

契約の実務で見られる書き方

一つ目の「承諾の方法が決まっていない」は、禁止型で起きやすい問題です。「事前の書面による承諾なく入力してはならない」と書いてあっても、承諾をどの方式で取るのかが書かれていないと、受託者が承諾を取らずに進めたのか、口頭やメールで取れていたのかで争いになります。承諾の方式は、後の見出し「承諾の方式と例外の設計」で三つの型に分けて整理します。

二つ目の「広すぎる禁止」は、実務と契約書のずれが最も目に見える形で出る問題です。「生成AIを一切利用してはならない」と書くと、文章の校正支援、翻訳、画像の背景除去のような補助的な作業まで違反になります。発注者側の他の条項や、発注者自身の運用と矛盾して、契約の初日から違反になる構造になっていた例もありました(点検記録でおおむね3依頼者分。このほかに、生成AIを提供する側の書類で1例)。禁止の射程を実際の作業に合わせて絞ることが、条項を「守れる条項」にする第一歩です。

三つ目の「入力だけで終わる禁止」は、条項の組み立ての問題です。派生情報(入力した情報をもとにAIが出した要約・分析・翻訳など、元の情報から作られた二次的な情報)を契約でどう扱うかを決めておかないと、禁止に違反して入力してしまった場合や、承諾のうえで入力した場合に、できあがった結果物の扱いが争点になります。

条文例

禁止型の条文例(入力・出力・承諾の三点を一組にする)

  1. 受託者は、委託者の事前の書面(電子メールを含む。)による承諾なく、委託者から開示を受けた秘密情報を、生成AIサービスその他の外部サービスに入力し、送信し、アップロードし、又は当該サービスの学習に利用させてはならない。
  2. 受託者は、前項の承諾を得ずに秘密情報を入力した場合、当該入力により生成された出力、要約その他の派生情報を、本業務の履行を含め、いかなる目的にも利用してはならない。
  3. 委託者が第1項の承諾をした場合でも、受託者は、個人情報及び顧客情報を入力してはならない。

全文ではなく論点を示す短い例です。電子メールを承諾の方式に含めるかは、契約の運用に合わせて決めます。

条件付き許可型 条件の組み合わせ方

条件付き許可型は、実務の実態に合わせやすい一方、条件の置き方で出来が大きく変わります。点検の実務で見られた問題の型を整理すると、次のようになります。

条件付き許可型で起きがちなこと(型として)

  • 条件を置いたのに、満たしているかを確かめる手段がない。使うサービス名、プラン、保存場所、保存期間、アカウント名義が空白のままになっている。
  • 「合理的な安全管理措置を講じる」とだけ書かれ、何を入力してよいのかが決まらない。
  • 発注者側の書式が、発注者自身が使っている外部サービスの利用と矛盾している(自社の規定に初日から違反する)。
  • 受託者側は包括的に免責され、発注者側は全責任を受託者に負わせるなど、責任の置き方が両極端になっている。
  • 「AIサービス」「外部サービス」の定義がなく、クラウド型だけを指すのか、自社環境で動かすものも含むのかが読めない。
  • 学習に使われない設定を条件にしても、サービス側が不正利用の監視のために入力を一定期間保持する仕様は避けられず、NDAの「速やかな消去」と食い違う(1件。例として)。

この中で、条件付き許可型に特有なのは最初の問題です。「学習に使われない」という条件は、サービスの契約条件や設定画面で確かめられる事実ですが、確かめた結果を誰がどこに残すのかを書かなければ、後から確認できません。この点は、次のページで申告・記録の条項として扱います。

入力する情報の区分も、条件付き許可型の中心です。三段(入れてよい・設定などの条件付きで入れてよい・入れてはならない)に区分した例が、16のうち3ありました。区分の考え方は生成AIに入力してよい情報・いけない情報の取り決めで詳しく整理します。

条文例

条件付き許可型の条文例(条件を論点ごとに置く)

  1. 受託者は、本業務の遂行において、生成AIサービスを利用することができる。ただし、利用するサービスは、別紙に記載したもの、又は委託者が書面で承認したものに限る。
  2. 受託者は、前項のサービスのうち、入力した情報がサービス提供者の学習に利用されないことを、サービスの契約条件又は設定により確認できるものにのみ、情報を入力することができる。
  3. 受託者は、個人情報を、特定の個人を識別できないように加工したうえで入力する。委託者が書面で入力を禁止した情報は入力しない。
  4. 受託者は、生成AIの出力について、内容を確認し、必要な修正をしてから納品する。

条件の数は多く見えますが、各項を独立して確かめられる事実にしておくと、後で守られているかを点検できます。

「AI」の定義、承諾の方式、例外の設計

「AI」の範囲を決める

禁止でも許可でも、「AI」「生成AI」「外部サービス」の範囲が書かれていない契約は、読み手によって意味が変わります。点検の記録では、定義がなく範囲が不明なものが2依頼者分、定義を置いたものが5依頼者分ありました(概数)。生成AIを広く定義すると翻訳ソフトや検索の要約機能まで入り、狭く定義すると新しい形のサービスが漏れます。

定義は、禁止したい行為から逆算して作るのが実務的です。たとえば、秘密情報の流出を防ぐことが目的なら、「事業者が提供する外部のサービスで、入力した情報を送信して処理させるもの」と、機能ではなく情報の流れで書きます。自社のパソコンの中だけで動くものまで含めるかは、別に書き分けます。

承諾の方式 三つの型

承諾の方式は、点検の記録では三つの型が見られました。方式を書かずに「事前の承諾」とだけ書く条項は、この三つのどれなのかが読めません。

承諾の方式の三つの型

型内容向く場面気をつける点
個別承諾利用のたびに、発注者の承諾を得る。秘密性が非常に高い情報を扱うとき。毎回の手間が大きく、形骸化して承諾なく進みやすい。
まとめて承認使ってよいサービスや保存先を、あらかじめ一覧にして承認する。継続的に作業を任せる業務委託。一覧の更新と、一覧外のサービスを使うときの手続を決める。
ガイドライン掲載=承諾済み発注者のガイドラインの一覧に載っているものは承諾済みとみなす。発注者側のルールが整っているとき。ガイドラインの変更が契約上どう扱われるか(同意が要るのか通知で足りるのか)を決める。

三つの型のうち、実務で扱いやすいのは「まとめて承認」です。記録では、使ってよいサービスと保存先を条文や別紙でまとめて示す方式を入れ、さらに、学習に使われないことが確認できるサービスなら個別の承諾を要しない、という定めを置いた例が見られました(1依頼者。例として)。禁止から一覧と申告の組み合わせに改めることで、禁止が実務と合わず形骸化するのを避けた例もあります(1依頼者。例として)。

例外を設計する

全面禁止の書き方は、補助的な編集や一般的な事務作業まで巻き込みます。例外を明示した例では、「補助的な編集に限り、書面による承諾を得て行うことができる」とした型と、「教材や秘密情報、顧客の個人情報を使わない一般的な事務作業は対象外」とした型が見られました。例外は、広げすぎると禁止が空洞になるので、例外に当たる作業の範囲を短く具体的に書くのが基本です。

書き方の例(型として作り直した例) 禁止の書き方と承諾の方式

禁止の射程

契約でよく見られる書き方受託者は、本業務において、生成AIを一切利用してはならない。
問題点翻訳、校正、検索まで違反になる。「生成AI」の定義がなく、守れない条項になる。
直した書き方受託者は、委託者から開示を受けた秘密情報を、委託者が承認した生成AIサービス以外に入力してはならない。ただし、秘密情報を用いない一般的な事務作業はこの限りでない。

承諾の方式

契約でよく見られる書き方委託者の事前の承諾なく、外部サービスを利用してはならない。
問題点個別承諾か、まとめての承認かが読めない。受託者が承諾を取れたかで争いになる。
直した書き方利用できるサービスと保存先は別紙に定め、別紙にないものを使うときは、委託者の書面(電子メールを含む。)による承認を得る。

入力と出力

契約でよく見られる書き方秘密情報を生成AIに入力してはならない。
問題点入力後に生まれる要約や分析などの派生情報の扱いが空白になる。
直した書き方入力を禁止し、承諾なく入力した場合は、その出力と派生情報をいかなる目的にも利用しない。

公的資料と法令から見た位置づけ、立場による重さの違い

生成AIの利用を契約で取り決める根拠は、一つの法律にまとまっているわけではありません。実務で参照される公的資料と法令を、条項の論点ごとに整理すると、次のようになります。

条項の論点と、参照される資料・法令

論点参照する資料・法令要旨(自分の言葉)
入力そのものの制限AI事業者ガイドライン第1.2版[1]AIの利用者は、個人情報や機密情報を不適切に入力しないことが取組事項に挙げられている。法的義務ではなく、自主的な指針(ソフトロー)である。
契約で利用が禁止されている場合AI事業者ガイドライン第1.2版[1]法令になくても、当事者間の契約でデータの利用が禁止されている場合がある。委託先の利用が、上位の契約に反しないかを確認する根拠になる。
秘密情報の管理不正競争防止法2条6項[3]営業秘密は、秘密として管理されている有用な情報で公然と知られていないもの。外部サービスへの入力がこの管理にどう影響し得るかを考える手がかりになる。
個人情報の入力個人情報保護法25条[4]・個人情報保護委員会の注意喚起[5]個人データの取扱いを委託する場合は委託先を監督する。生成AIへの入力は、利用目的の範囲内か、機械学習に使われないかを確認する。
既存の著作物の入力文化庁「チェックリスト&ガイダンス」[2]既存の著作物を指示として入力する場面は、似た生成物を作る目的なら許諾が要る場合がある。内部ルールと侵害時の対応手順を事前に想定する。

文化庁のチェックリストは、AIを業務で使う人が著作権のリスクを下げるための取組を、項目として整理した資料です。令和6年7月31日の版で、内部ルールの策定、侵害が起きた場合の対応手順の事前の想定、生成物を使う前の類似性の確認などが挙がっています。[2]全部をやれば責任を問われないという趣旨ではないと、資料自身が述べています。契約に取り込むなら、「受託者は既存の著作物を指示として入力しない」「生成物を納品する前に既存の著作物と似ていないか確認する」のように、守れる行為として書くのが現実的です。

営業秘密との関係は、慎重に考える必要があります。営業秘密として法律の保護を受けるには、持ち主が秘密として扱ってきた事実が前提になります。[3]秘密情報が外部のサービスに渡り、学習などに使われうる状態になると、管理の状況を後から説明しにくくなる場面があり得ます。だからこそ、入力を制限する条項に加えて、使えるサービスと設定を特定しておくことが、管理の実態を説明する材料にもなります。

裁判例についても、事実のとおり書いておきます。生成AIの利用を取り決めた契約条項の解釈が争われた裁判例は、裁判所の裁判例検索で確認できませんでした。[6]確認できる裁判例はまだ少ないため、本ページは裁判例ではなく、契約の実務での書き方と、公的資料・法令にもとづいて整理しています。

立場によって、条項の重さは変わる

同じ条項でも、発注者の立場か受託者の立場かで、重く感じる部分が変わります。発注者は、禁止と確かめる手段(申告・記録)を厚くしたい。受託者は、実務で守れる範囲に禁止を絞り、開示や記録の義務を軽くしたい。点検の実務でも、受託者側の立場から、開示・記録の提出義務を外す方向に見直した例がありました(1依頼者。例として)。

ここで大切なのは、どちらが正しいかを決めることではありません。自分が結ぶ契約の立場で、守れる義務だけを書くことです。守れない義務を書いた契約は、問題が起きたときに、書いた側の不利に働きます。たとえば、「生成AIを一切使わない」と約束した受託者が、翻訳ソフトを使っていた場合、約束違反を指摘される材料になります。

また、ひとつの業務委託契約の中でも、NDA(別紙のものを含む)、業務委託契約、確認書、ガイドラインが重なる場合があります。それぞれに生成AIの定めがあるときは、どれが優先するのかを決めておくことが必要です。この優先関係は、次のページで扱います。NDA側の記載はNDA(秘密保持契約)のよくある誤りで、書類の種類ごとの確認点をまとめています。

見つけ方と直し方 点検の手順

条項を点検する順序

  1. 1

    実態を確かめる

    受託者が生成AIを使うか。使うならどの作業で、どのサービスか。発注者自身が使っているサービスはあるか。

  2. 2

    型を決める

    禁止型にするか、条件付き許可型にするか。禁止型はNDAに多く見られた。生成AIを使う作業を任せる業務委託では、条件付き許可型が実態に合いやすい。

  3. 3

    「AI」を定義する

    入力した情報を外部へ送って処理させるサービスなど、情報の流れで範囲を決める。

  4. 4

    承諾の方式を選ぶ

    個別承諾、まとめて承認、ガイドライン掲載の三つから選び、条文に書く。

  5. 5

    例外を短く書く

    補助的な編集、秘密情報を使わない一般的な事務作業など、例外を具体的に。

  6. 6

    確かめる手段を置く

    申告・記録・停止指示は次のページで。条件を置いたら、必ず確かめる手段とセットにする。

上から順に、前の判断が次の判断の前提になります。

この条項を点検する10項目

  • 受託者が実際に生成AIを使うかどうかを、契約の前に確かめたか。
  • 禁止型か条件付き許可型かを、秘密性と作業の実態から選んだか。
  • 「AI」「生成AI」「外部サービス」の範囲を、情報の流れで定義したか。
  • 入力の禁止だけでなく、出力・派生情報の扱いも書いたか。
  • 承諾の方式(個別・まとめて・ガイドライン掲載)を条文に書いたか。
  • 例外(補助的な編集、秘密情報を使わない事務作業)を具体的に書いたか。
  • 条件付き許可型では、使えるサービスを別紙や確認書で特定したか。
  • 学習に使われない条件を置くなら、確かめる方法と、変更時の再承諾も書いたか。
  • 発注者自身の運用と矛盾していないか。
  • NDA・業務委託契約・確認書・ガイドラインの優先関係を決めたか。

書き方の例(型として作り直した例) 条件付き許可の書き方

条件の特定

契約でよく見られる書き方受託者は、適切な安全管理措置を講じたうえで、生成AIを利用できる。
問題点何を入力してよいかが決まらない。サービスも特定されず、守られているかを確かめる手段がない。
直した書き方受託者は、別紙のサービスに限り、別紙の区分に従って情報を入力できる。サービス・プラン・保存場所は、別紙又は確認書で特定する。

出力の確認

契約でよく見られる書き方受託者は、生成AIの出力を納品する。
問題点出力の誤りや、既存の著作物との類似を誰が確かめるのかが決まらない。
直した書き方受託者は、出力の内容を確認し、誤り及び既存の著作物との類似の有無を確かめたうえで納品する。

立場の調整

契約でよく見られる書き方受託者は、すべての責任を負う。
問題点上限のない全責任は、受託者側には重すぎる。逆に全面免責は、発注者側には軽すぎる。
直した書き方受託者は、故意又は重過失による場合のほか、本条の条件に違反した場合に責任を負う。責任の範囲と上限は、賠償条項に従う。

条項の点検と仕上げの進め方

生成AIの条項は、条文そのものよりも、契約書の他の部分(秘密情報の定義、再委託、損害賠償、NDAの返還・消去)とつなげて読んだときに、はじめて不具合が見つかることが多いものです。条項だけを切り出して直しても、ほかの条項との食い違いが残ります。点検と仕上げの全体の流れはAIで作った契約書の点検と仕上げの流れに、渡していただく資料も含めて整理しています。料金の目安とご相談の枠は、このページの末尾の案内にまとめています。急ぎでなければ、まず上の10項目で自分の契約書を読み返し、気になる点を書き出してみてください。

他の分野の契約での生成AIの扱いは、別サイトにも解説があります。NDAについてはNDAと生成AI・外部サービスへの入力、フリーランスが受け取るNDAの点検は受け取ったNDA・秘密保持条項を受注者側から点検、制作の現場でのAIの使用は制作での生成AIの使用と契約、漫画制作でのアシスタントへの取り決めは漫画制作と生成AIの契約条項、AI機能付きのSaaSを使う側の契約は生成AI機能付きSaaSの契約条項を参照してください。それぞれ読者の立場が異なるので、役割を分けて読むと整理しやすくなります。また、成果物の権利や表明保証の書き方は生成AIを使った成果物の権利と表明保証、取引先や社内のルールとして整える手順はAI利用のルールで扱います。

根拠・出典

  1. [1]総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」第1.2版(本編)令和8年3月31日(第5部 AI利用者の取組、共通の指針の注記)。法的拘束力のない自主的な指針 https://www.soumu.go.jp/main_content/001064279.pdf(確認日:2026年10月23日)
  2. [2]文化庁著作権課「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」令和6年7月31日 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/94097701_01.pdf(確認日:2026年10月23日)
  3. [3]不正競争防止法 2条6項(営業秘密)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000047(確認日:2026年10月23日)
  4. [4]個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律) 25条(委託先の監督)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057(確認日:2026年10月23日)
  5. [5]個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」令和5年6月2日公表(別添1) https://www.ppc.go.jp/news/press/2023/230602kouhou/(確認日:2026年10月23日)
  6. [6]裁判所「裁判例検索」「生成AI」などの語による全文検索の結果、本ページの主題(生成AIの利用に関する契約条項の解釈)を争点とする裁判例は確認できなかった https://www.courts.go.jp/hanrei/search1/index.html(確認日:2026年10月23日)

よくあるご質問

生成AIの利用は、全面的に禁止するのと、条件付きで認めるのと、どちらがよいですか。

どちらがよいかは、扱う情報の秘密性と、受託者の作業の実態で決まります。点検の記録では、禁止型9のうち7がNDAに置かれていました。実際に生成AIを使う作業を任せる業務委託では、使い方まで取り決める条件付き許可型のほうが実態に合いやすい面があります。実態を確かめずに全面禁止にすると、翻訳や校正といった補助的な作業まで違反になり、守れない条項になりがちです。

「AI」の定義はどう書けばよいですか。

機能の名前ではなく、情報の流れで書くと、新しいサービスが出ても漏れにくくなります。たとえば「事業者が提供する外部のサービスで、入力した情報を送信して処理させるもの」と書き、自社環境の中だけで動くものを含めるかは別に定めます。禁止したい行為から逆算して範囲を決めるのが基本です。

受託者が黙って生成AIを使っていた場合は、どうなりますか。

契約に禁止や条件が書かれていて、それに反していれば、契約違反が問題になります。ただ、禁止の範囲が広すぎたり、承諾の方式が決まっていなかったりすると、違反かどうか自体が争いになります。個別の事案の判断は、契約の文言と事実関係で変わるので、このページでは一般論にとどめます。そうならないよう、使ってよいサービスを一覧にし、申告を求める条項を置いておく方法を、次のページで整理しています。

承諾はメールで足りますか。

足りるかどうかは、契約でどの方式を認めるかによります。条文に「書面(電子メールを含む。)」と書いておけば、メールでの承諾を契約上の承諾として扱えます。書かないまま運用すると、口頭やチャットでの了解が承諾にあたるのかが争点になります。承諾の方式は、条文に書いて決めておくのが確実です。

翻訳ソフトや校正ツールも禁止の対象になりますか。

「AI」「生成AI」の定義と例外の書き方で決まります。定義が広く、例外もなければ、翻訳ソフトも対象になり得ます。秘密情報を入力しない一般的な事務作業は対象外とする例外を置くなど、禁止したい行為と、許したい作業を、条文の上で書き分けておくことが大切です。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の書類が有効か無効か、どの条項を直すべきかは、事業の実際の流れ、取引の相手、書類の全体の構成によって異なります。書き方の例として紹介している内容は、型として作り直した一般的な例で、特定の事業者や書類を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月23日時点のものを確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 文化庁 / 個人情報保護委員会 / 法務省 / 消費者庁

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