このページの要点
- 最も多い誤りは損害賠償の設計。帰責事由、損害の範囲、上限、措置義務を同じ条の中で書き切る。
- 秘密情報の定義は、広すぎても狭すぎても使えない。性質上の秘密を含め、除外事由を五類型で置く。
- 存続期間は、一般の情報は終了後一定年数、営業秘密・個人データは該当しなくなるまで、の二段構えにする。
- 再委託先への開示と第三者開示の条が矛盾すると、条文が空文になる。返還・消去には例外を置く。
このページの結論
- NDAで最も多い誤りは損害賠償の設計で、点検記録10件のうち7件に出ている。無過失責任に読める、上限がない、「相手方が必要と認める措置」を直ちに講ずる義務がある、といった形をとる。
- 次に多いのは秘密情報の定義(6件)と存続期間(5件)。定義は広すぎても狭すぎても、除外事由がなければ使えない。存続は「公知となるまで」だけにせず、一般の情報と営業秘密で分ける。
- このページの事例はAIの下書きの点検記録ではなく、この種類の書類でよく見つかる誤りである。渡されたNDAを点検する観点として読む。
NDAの役割と、誤りの読み方
NDA(秘密保持契約)は、取引や業務の中で開示する情報の取扱いを定める契約です。営業秘密(不正競争防止法が保護の対象とする、秘密として管理されている生産方法や販売方法などの有用な情報で、世間に知られていないもの)は、法律でも一定の保護を受けますが、その前提は「秘密として管理されていること」で、[1]契約でどの情報をどう扱うと決めておくことは、管理の裏付けにもなります。逆に、範囲が広すぎる契約は、守るべき情報が埋もれ、実務で守られない契約になりがちです。
点検の実務では、NDAを次の観点で読みます。ここで挙げる件数は、事務所が点検した10件のNDAの記録のうち、その型が指摘されていた記録の数です。1件の記録に複数の型が出ることがあり、合計は10になりません。
NDAの点検記録で多かった誤りの型
| 型 | 件数 | 依頼者数 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 損害賠償の設計 | 7件 | 7依頼者 | 無過失責任・上限なし・措置義務・上限が小さすぎる |
| 秘密情報の定義 | 6件 | 6依頼者 | 無限定・明示要件・除外事由なし |
| 存続期間 | 5件 | 5依頼者 | 終期なし・自動更新との組合せ・公知まで |
| 再委託と第三者開示の食い違い | 4件 | 4依頼者 | 責任範囲が不明 |
| 返還・消去の設計 | 4件 | 4依頼者 | 返還のみ・直ちに・例外なし |
| 条文の技術的欠陥 | 4件 | 4依頼者 | 未定義語・通知先・主語・重複 |
| 他の書面との食い違い・優先関係 | 4件 | 4依頼者 | 業務委託契約・PP・別条 |
| 管轄・準拠法 | 4件 | 4依頼者 | 遠隔地・住所地の特定・他書面との抵触 |
| 救済・営業秘密・個人情報の手当て不足 | 3件 | 3依頼者 | 差止め・個人データ |
| 実務に合わない義務 | 3件 | 3依頼者 | 一律複製禁止・片務の報告・社内開示不可 |
| 外部AI・クラウド等への未対応 | 3件 | 3依頼者 | 新しい取扱いの手当てなし |
| 成果物の権利・記憶に残る知識 | 2件 | 2依頼者 | 協議事項になっている |
NDAの点検記録10件のうち。AIの下書きの点検記録ではなく、この種類の書類でよく見つかる誤りです。
損害賠償の設計:無過失責任、上限なし、措置義務
契約を守らなかった側が、自分の責任とはいえない事情でそうなったと言える場合を除き、損害賠償を求められるのが民法の原則です。[2]ところがNDAの条文に「違反した場合は損害を賠償する」とだけ書かれ、帰責事由に触れていないと、責めに帰すべき事由がなくても賠償するという意味に読めてしまいます。通常生ずべき損害を基本とし、特別の事情による損害は予見すべきときに限るという範囲の考え方も、[3]契約書に書いておくことで争いを減らせます。
点検で見つかった型は五つあります。第一は、帰責事由が書かれず、無過失責任に読める形です。第二は、賠償の範囲も上限もなく、漏えいによる損害の全てを負う形です。第三は、「相手方が必要と認める措置を直ちに講ずる」とあり、相手方が決めた内容を直ちに実行する義務を負う形です。第四は逆に、上限が対価の総額に設定され、漏えいの被害に比べて小さすぎる形です。第五は、業務委託契約の賠償上限をそのまま差し込み、秘密保持の被害に合わない形です。
賠償額をあらかじめ決める(賠償額の予定)ことや違約金を定めることも可能で、違約金は賠償額の予定と推定されます。[4]上限額を置くかどうかは、保険の範囲と案件の規模から根拠を持って決めます。上限を置く場合に、故意または重大な過失の場合まで上限を及ぼすのかは、条文に書かなければ読み方が分かれやすい点なので、除くか含めるかを明記します。
書き方の例(型として作り直した例) 損害賠償の書き方
帰責事由
措置義務
上限
損害賠償の条項(要点だけの例)
- 自己の責めに帰すべき事由により本契約に違反した当事者は、相手方に現実に生じた通常の損害を賠償する責任を負う。
- 前項の賠償の総額は、当事者の故意又は重大な過失による場合を除き、【上限額又は算定方法】を上限とする。
上限額は取引の規模と保険の範囲から根拠を持って決める項目です。ここでは構成だけを示しています。
秘密情報の定義:広すぎる、狭すぎる、除外事由がない
秘密情報の定義は、NDAの中心です。点検記録では、四つの型が見つかりました。「その他一切の情報」と書かれ、「秘密である旨を示して開示された」という明示の条件がどの語にかかるか二通りに読める形。明示した情報だけを秘密とし、性質上当然に秘密として扱うべき情報が漏れる形。口頭で開示した情報を、一定期間内に書面で確認することを条件にしているため、現場で運用できない形。そして、公知の情報、すでに持っていた情報、独自に開発した情報、適法に入手した情報といった除外事由がない形です。
範囲を絞るほど、営業秘密としての保護も受けやすくなります。営業秘密に当たるのは、秘密として管理され、事業に役立つ技術上・営業上の情報のうち、世間に知られていないものです。[1]何もかもを秘密とする契約は、かえって管理の実態と離れ、守るべき情報の境目をあいまいにします。
書き方の例(型として作り直した例) 定義の書き方
対象の範囲
除外事由
口頭開示
存続期間:終期がない、「公知となるまで」のみ
存続期間の誤りは二つに分かれます。一つは、自動更新に上限がなく、契約終了後も秘密保持義務が続くため、終期がない形です。もう一つは、「公知となるまで」だけを存続期間とする形で、何が公知かの判断が争点になります。
設計の基本は、二段構えです。原則は、契約終了後一定年数に限る。営業秘密や個人データのように、保護の必要が長く続く情報は、該当しなくなるまで続ける。この二段にしておくと、義務を負う側は無限の義務を避けられ、開示する側は大切な情報の保護を確保できます。更新の拒絶の方法を書面に限るなど、手続を重くしすぎないことも運用の確認点です。
存続期間の条項(要点だけの例)
- 本契約の有効期間は【期間】とし、期間満了の【数】日前までにいずれの当事者からも書面による申出がないときは、同一の条件でさらに【期間】更新する。更新は【回数】を限度とする。
- 秘密保持義務は、本契約の終了後【年数】年間存続する。ただし、営業秘密又は個人データに該当する情報については、該当しなくなるまで存続する。
年数と回数は取引の性質から決める項目です。
再委託と第三者開示、返還・消去
再委託の定めと第三者開示の定めの食い違いは、実務で動かない契約になる典型です。再委託は自由と書きながら、第三者への開示は個別の事前承諾が必要と書くと、再委託先に資料を渡せません。条文が実質的に空文になります。再委託が自分の責任なのか、「一切の責任」を負うのか、範囲が不明な例もあります。補助者を使う業務なのに、補助者の規定がない書面もあります。直し方は、再委託先への開示は承諾不要とし、再委託先に同等の義務を課して、自分が責任を負う範囲を特定する書き方です。
返還・消去の設計も誤りが多い型です。返還だけが書かれ、電子データを消去する方法がない。「直ちに」返還・消去すると書き、実務に合わない。「不要となったとき」の判断者が書かれていない。法令上の保存義務や自動バックアップに残るデータの例外がない。逆に、一律削除として成果物を再利用できなくなる、といった形です。例外を置くとき、消去の確認を書面で行うかどうかも合わせて決めます。
再委託・返還で確かめる点
- 再委託先への開示は、承諾の要否が第三者開示の条と矛盾していないか
- 再委託先に課す義務と、自分が負う責任の範囲が書かれているか
- 返還と消去の両方が書かれ、電子データの扱いが決まっているか
- 法令上の保存義務、自動バックアップの残存データなどの例外があるか
- 「不要となったとき」の判断者と、終了後の期限(例:終了から【数】日以内)が決まっているか
条文の技術的欠陥、他の書面との食い違い、管轄・準拠法
技術的欠陥は、地味ですが有事に響きます。定義語が条ごとに違う意味で使われる、通知先が自分自身の住所になっている、主語が前段と後段で入れ替わっている、同じ趣旨の条が二つあり存続の対象が片方だけ、義務を「〜します」と書く誓約文体で義務の強さが読めない、条文が崩れている、存続条項の対象に定義条・返還条・管轄条が入っていない、といった形です。見つけ方は、定義語の一覧を作り、各条の主語を確認し、存続の対象となる条の参照先を実際に読むことです。
他の書面との食い違いは、NDAと業務委託契約の賠償上限や優先順位が合わない、NDAとプライバシーポリシーの住所や管轄が違う、NDAの中に業務の適法性の確認のような別の契約の内容が混ざる、といった形です。NDAは単独で結ばれることが少なく、基本契約や業務委託契約と並ぶため、どれが優先するかを書いておく必要があります。
管轄・準拠法では、遠隔地の裁判所の専属管轄、「甲の住所地」と書きながら事業所か代表者の住所か不明、準拠法の射程が書かれていない、他の書面の管轄と抵触する、といった形が見られます。管轄の合意は契約書ごとの変数の一つで、使い回すと別の取引の管轄が残ることがあります。この種の組み立ての不備は定義・別紙・管轄の不備のページでも整理しています。
救済と個人情報、実務に合わない義務、外部AI・クラウド
差止めの手当て、営業秘密の取扱い、個人情報の取扱いの手当てが足りない例も、点検記録の3件で見られました。個人データの取扱いの委託を受ける場合、委託元は委託先の監督義務を負います。[5]NDAに個人データが含まれる可能性があるときは、秘密保持の条に加えて、個人データの取扱いの範囲、漏えい時の連絡、安全管理措置を別の条で定めておく必要があります。
実務に合わない義務は、一律に複製を禁止して業務ができない、報告義務が片務で一方だけが負う、社内の担当者にも開示できない、といった形です。成果物の権利が秘密保持の中で「協議」とされる、記憶に残る一般的な知識まで使えなくなる、という例も2件ありました。義務は守れる範囲に絞るほうが、結果として守られます。
そして外部のAIやクラウドなどの新しい取扱いへの未対応も、3件で見られました。秘密情報を外部のサービスに入力したり、クラウドに保存したりしてよいかが、条文から読めないという形です。この論点は取引の中で生成AIの利用を取り決める問題と重なるため、業務委託の生成AI利用条項と生成AIに入力してよい情報・いけない情報のページで詳しく扱います。NDA側の記載は、利用してよい外部サービスの特定、保存先、消去の方法を決める形が基本になります。
見つけ方と、相手のNDA案が重いとき
NDAを点検する手順
- 1
関係する書面を並べる
NDA、基本契約、業務委託契約、プライバシーポリシーなど、同じ取引で使われる書面を並べ、優先関係と賠償上限、管轄を比べます。
- 2
定義語と主語を洗い出す
秘密情報、開示者、受領者など定義語の一覧を作り、各条の主語と通知先が合っているかを確かめます。
- 3
責任の三点を読む
帰責事由、損害の範囲、上限を確認し、措置義務が相手の一方的な判断になっていないかを見ます。
- 4
存続・返還・再委託を通して読む
存続期間の二段構え、返還・消去の例外、再委託先への開示と責任範囲を、一つの流れで確かめます。
- 5
実務で守れるかを試す
社内の担当者や委託先に実際に開示する場面を想定し、義務が現場で守れる内容かを確認します。
相手方が用意したNDA案が重いときは、重さの原因が書面の欠陥なのか、リスク配分の偏りなのかを分けるのが出発点です。欠陥は整合のための修正として申し入れやすく、偏りは優先順位を付けて検討します。申入れは当事者本人が行う事柄で、観点の整理と相手方との交渉は別のことです。賠償の設計は責任条項の過不足、取引基本契約の側の欠陥は製造委託・取引基本契約書の誤りの型も参考になります。書類の種類ごとの確認点は点検チェックリストにあります。
他のサイトにも、NDAの個別の論点を扱う記事があります。違約金と賠償は違約金と損害賠償、定義と表示は秘密情報の定義・表示・包括、存続期間は存続期間、返還と廃棄は返還・廃棄、生成AIとの関係は生成AIとNDA、業務委託側の秘密保持は業務委託の秘密保持の記事を参照してください。
根拠・出典
- [1]不正競争防止法 2条6項(営業秘密の定義)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000047(確認日:2026年10月23日)
- [2]民法 415条(債務不履行による損害賠償)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(確認日:2026年10月23日)
- [3]民法 416条(損害賠償の範囲)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(確認日:2026年10月23日)
- [4]民法 420条(賠償額の予定)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(確認日:2026年10月23日)
- [5]個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律) 25条(委託先の監督)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057(確認日:2026年10月23日)
よくあるご質問
NDAの有効期間は何年にすればよいですか。
取引の性質で決まるため年数の目安は示せませんが、設計の基本は二段構えです。原則は契約終了後一定年数に限り、営業秘密や個人データに該当する情報は該当しなくなるまで続けます。自動更新を置くときは、更新の上限や、更新を拒絶する手続が重すぎないことも確かめます。
口頭で伝えた情報も秘密情報になりますか。
定義の書き方次第です。口頭開示を一定期間内の書面確認に限ると、現場で書面化を忘れた情報が保護されません。口頭で開示した情報も、内容を特定して通知したときは対象とし、通知がなくても性質上秘密として扱うべき情報は含める書き方が実務的です。
違約金を入れたほうがよいですか。
違約金は賠償額の予定と推定されるため、被害の立証が難しい場合に役立つ一方、額が過大だと争いになる可能性があります。入れるかどうかは取引の規模と守る情報の価値で決めます。入れるときは、故意・重過失の場合の扱いも条文に書きます。
再委託先に秘密情報を渡してよいですか。
契約書で許されている範囲によります。再委託を認めながら第三者開示を個別の承諾に限ると、再委託先に渡せない書面になります。再委託先への開示は承諾不要とし、再委託先に同等の義務を課して、責任を負う範囲を特定する書き方が一般的です。
相手方のNDA案が重いときは、どうしますか。
まず欠陥と偏りを分けます。条文の技術的な不備や他の書面との食い違いは、整合のための修正として申し入れやすい項目です。賠償の範囲や上限のような偏りは、取引全体の中で優先順位を付けて検討します。申入れは当事者本人が行うことで、このサイトは観点の整理にとどまります。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の書類が有効か無効か、どの条項を直すべきかは、事業の実際の流れ、取引の相手、書類の全体の構成によって異なります。書き方の例として紹介している内容は、型として作り直した一般的な例で、特定の事業者や書類を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月23日時点のものを確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 文化庁 / 個人情報保護委員会 / 法務省 / 消費者庁