このページの要点
- 社内ルール、契約条項、国の指針は別の層。国の指針は法的義務ではないが、契約や社内ルールに取り込むとその範囲で自社の約束になる。
- 最低限の要素は、使ってよいサービス、入力区分、出力の確認、生成過程の記録、疑いが出たときの手順の五点。教育、窓口、見直しを加えて九つ。
- 入力区分は三段(入れてよい・条件付き・入れてはならない)にすると運用しやすい。認証情報や要配慮個人情報を入れてはならない側に挙げる例が見られる。
- 作る前に、使っているAIと扱う情報、取引先との約束を洗い出す。契約と食い違うルールは、契約違反の原因になる。
このページの結論
- AI利用ルールは、社内の運用ルール、取引先との契約条項、国の指針を別の層として考えます。最低限そろえたいのは、使ってよいサービス、入力してよい情報、出力の確認、生成過程の記録、権利侵害の疑いが出たときの手順の五点です。
- 国の指針(AI事業者ガイドライン、文化庁のチェックリスト、個人情報保護委員会の注意喚起)は法的義務そのものではなく、自主的に参考にする資料です。ただし個人情報保護法や著作権法などの法律は、ルールの有無にかかわらず別に適用されます。
- ルールは文書を作って終わりではありません。実際に使われているAIを洗い出し、情報の区分を決め、周知して記録を残し、定期的に見直すところまでを含めて、はじめて契約で約束したことを守れる仕組みになります。
AI利用ルールとは何か|社内の運用、契約条項、国の指針を分けて考える
ここでいうAI利用ルールは、会社や事業の中で生成AIをどう使うかを決めた文書のことです。名称は運用規程でもガイドラインでも構いません。大切なのは、誰が、どの業務で、どのAIに、どんな情報を入れてよいかが、読んだ人に分かる形で書かれていることです。
ルールを考えるときに混同しやすいのが、三つの層です。自社の中だけで決める社内の運用ルール、取引先と合意して契約書に書く条項、そして国や関係機関が示している指針です。層によって、決められる人も、守らせる力も、変えるときの手間も違います。
三つの層と法律の違い
| 層 | 何を決めるか | 誰に効くか | 変えるとき |
|---|---|---|---|
| 社内の運用ルール | 自社の従業員や委託スタッフが、どのAIをどの情報に使ってよいか | 自社の中の人。守らせる力は社内の仕組みと周知で決まる | 自社の判断で改訂できる。変えたら周知と記録が要る |
| 取引先との契約条項 | 取引相手のAI利用の禁止や条件、自社のAI利用の告知、成果物の権利と責任 | 契約を結んだ当事者。守らなければ契約上の責任の問題になる | 相手の合意が要る。契約の変更や覚書の手順を踏む |
| 国の指針(ソフトロー) | 事業者が自主的に取り組む目安。使い手の立場の取組も示される | 誰も直接は縛らない。契約や社内規程に取り込んだときに初めて拘束力が生じる | 所管官庁が改訂する。版と公表日を確かめて引く |
| 法律 | 個人データの扱い、他人の著作物の利用、秘密にしている事業情報の保護など | ルールの有無にかかわらず、該当する事業者に適用される | 改正で条文が変わる。基準日を決めて現行の条文で確認する |
指針は参考にする資料で、法律そのものではありません。社内ルールに「指針を守る」と書いたり、契約で約束したりした場合に、その範囲で自社の義務になります。
たとえば取引先との契約に「入力した情報が学習に使われない設定のサービスに限る」と書いたとします。社内に使ってよいサービスの一覧がなければ、担当者は個人で契約している無料のサービスを使ってしまうかもしれません。契約に書いたことを実際に守れる仕組みが社内にあるかどうかが、ルールを作る一番の動機になります。
法律は三つの層の外側で、ルールの有無にかかわらず適用されます。個人データの扱いには個人情報保護法[5]、他人の著作物の利用には著作権法[7]、秘密にしている事業情報の保護には不正競争防止法[6]がそれぞれ関わります。社内ルールに「法令を守る」と一行書くだけでは足りず、どの場面でどの法律が問題になるかを、後の節のように具体的に書き込む必要があります。
契約の実務で見られる書き方書き方と問題の型として
取引先のAI利用を取り決めた条項の型(確認できた範囲)
業務委託やNDAで、取引相手によるAIの利用を取り決めていた25依頼者分の点検記録を見ると、承諾なく入力することを禁じる「禁止型」が9、条件を付けて認める「条件付き許可型」が16でした。
条件付き許可型で置かれていた条件は重なりがありますが、学習に使われない設定のサービスに限る、または学習利用の有無を開示させるものが12、使うサービスを合意したものや一覧で特定したものに限るものが7、個人情報を匿名化するなどして入力させる、または承諾を得た場合に限るものが7、出力を人が確認してから使わせるものが7でした。社内ルールの要素は、こうした条項を実際に守るための裏付けとして並べることができます。
件数は、確認できた範囲の点検記録で数えた依頼者数です。業務委託・NDAで取引相手のAI利用を取り決めていた書類に限った数で、AIの下書きの誤りの件数ではありません。型の詳しい内容は業務委託の生成AI利用条項のページにあります。
ルールに入れる九つの要素
九つの要素は、文化庁のチェックリストが利用者に勧めている取組[3]、AI事業者ガイドラインが利用者に求めている取組[1]、個人情報保護委員会の注意喚起[4]を、実際に運用する順に並べ直したものです。全部を厚く書く必要はありません。自社が使っているAIの種類と、扱う情報の重さに応じて、書く量を変えます。
要素1 目的と対象
最初に書くのは、ルールが誰の、どの場面の、どのAIの利用に適用されるかです。役員と従業員だけか、業務を受託している人も含むか、個人の端末やアカウントでの業務利用も対象かを決めます。「AI」の範囲も先に決めます。文章や画像を生成するサービスだけか、翻訳、要約、文字起こしの機能も含めるかで、現場の迷いが大きく変わるからです。
対象と用語を決める条文例(論点ごとの例)
- 本規程は、当社の役員、従業員及び当社の業務を受託する者が、業務のために生成AIを利用する場合に適用する。個人所有の端末又はアカウントを用いる場合も同様とする。
- 本規程において「生成AI」とは、入力された指示に基づき、文章、画像、音声、プログラムその他の出力を自動的に作成する仕組みをいい、翻訳、要約及び文字起こしの機能を含む。
全文ではなく、対象と用語を決める部分だけの例です。自社が使っているサービスの種類に合わせて、含める機能を選びます。
要素2 使ってよいサービスの決め方
使ってよいサービスは、承認済みの一覧に載せる方式と、利用の都度申請してもらう方式があります。どちらの場合も、確かめる項目を決めておきます。入力した内容が提供事業者の学習に使われるか、入力や出力がどこに、どのくらいの期間保存されるか、アカウントは誰の名義か、サービスの規約に業務利用を妨げる定めがないか、の四つが基本です。AI事業者ガイドラインも、AIの利用者に対し、提供者が定めた利用上の留意点やサービス規約を守ることを求めています[1]。
取引先との契約では、承諾の取り方に三つの方式が見られます。毎回個別に承諾を得る方式、使ってよいサービスと保存先をあらかじめまとめて示す方式、ガイドラインの一覧に載っているものは承諾済みとみなす方式です。社内ルールの一覧は、このうち二つ目と三つ目の方式の土台になります。個人で契約している無料版を業務に使わない、という一文を入れておくと、契約で約束した条件を現場が破りにくくなります。
要素3 入力してよい情報の区分
ルールの中で最も使われるのが、入力する情報の区分です。「機密情報や個人情報は入力しない」とだけ書くと、現場は何が機密なのかを自分で判断することになります。区分は三段にするのが実務では扱いやすく、入れてよいもの、設定などの条件を満たせば入れてよいもの、入れてはならないものに分けます。
入力区分の三段の例(考え方の例)
| 区分 | 入れる情報の例 | 満たす条件の例 |
|---|---|---|
| 入れてよい | 公開されている情報、自社の公開済みの資料、個人を特定できない一般的な文章 | 承認済みのサービスを使う。出力は人が確認する |
| 条件付きで入れてよい | 取引先から預かった資料の一部、匿名化や仮名化をした顧客情報、社内の非公開資料 | 学習に使われない設定を確認する。個人を特定できる情報は外す。取引先の承諾の範囲内かを確かめる |
| 入れてはならない | パスワードなどの認証情報、要配慮個人情報、利用目的の範囲を超える個人データ、契約で入力を禁じられた情報 | 例外を認める場合は、責任者の承認と記録を条件にする |
区分の線は事業によって変わります。自社が扱う情報を実際に洗い出してから、例を差し替えます。
個人データを含む指示を入力するときの注意として、個人情報保護委員会は、その入力があらかじめ特定した利用目的の範囲に収まっているかを慎重に確かめるよう求めています[4]。さらに、本人の同意を得ないまま入力した個人データが、回答を返す以外の目的、たとえば機械学習に回される場合は、個人情報保護法に反するおそれがあるとも述べています[4]。そのため、提供事業者が入力を機械学習に使わないことなどを、利用の前に確かめておく必要があります。ここでいう要配慮個人情報(病歴や信条など、不当な差別や偏見が生じないよう特に配慮が必要なものとして法令に定められた個人情報用語集)は、契約で入力してはならない情報として挙げる例が見られます[5]。
外部のサービスに個人データの取扱いを任せる形になる場合は、委託先の監督[5]や、提供先が外国にある場合の制限[5]が関わります。どの区分に当たるかは、サービスの仕組みと契約の内容によって変わるため、一覧には「確認が済んだサービス」と「確認した日」を残しておくと、後から説明しやすくなります。区分ごとの取り決め方は生成AIに入力してよい情報・いけない情報のページで詳しく扱っています。
事業上の秘密も、同じ区分の中で扱います。不正競争防止法は、営業秘密を次のように定めています[6]。
「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
秘密として管理されていることが要件に含まれているため、社外のサービスへ自由に入力できる状態になっていないかは、管理の実態として問われる場面があります。ただし、入力がどのように評価されるかは事案ごとに異なります。一律にどうなるとは言えませんので、重要な情報ほど「入れてはならない」の区分に置き、例外を承認制にするのが安全です。
要素4 出力の確認
AIの出力は、人が確かめてから使います。確かめる項目は、事実や数字、固有名詞、引用元、そして既存の著作物に似ていないかです。生成物が既存の著作物の権利を侵すかどうかは、文化庁の「考え方」によれば、表現の類似性と、既存の著作物に依拠したかどうか(依拠性)の両方で判断されます[2]。そのため、チェックリストは、生成物を利用する前に、既存の著作物と似ていないかを検索などで確認することを勧めています[3]。契約書や規約のような法的な書面では、AIが挙げた条番号や用語が実在するかの照合も加えます。また、指示として既存の画像や文章そのものを入力する場面では、似たものを作らせる目的だと著作権法30条の4による利用が認められず、許諾が必要になる場合がある、とも示されています[3][7]。照合の手順はAIの回答・分析の確かめ方にまとめています。
AIの出力を、特定の個人や集団の評価に使う場面では、もう一段の配慮が必要です。AI事業者ガイドラインは、そのような使い方をするときにはAIを使っている旨を関係者に通知し、人の合理的な判断で説明責任を果たすことを求めています[1]。採用や人事の評価にAIを使う場合などは、この点をルールに明記しておきます。
要素5 生成過程の記録
誰が、いつ、どのサービスで、どんな指示を入れて、どんな出力を得て、どう使ったかを残します。文化庁のチェックリストは、既存の著作物に依拠していないことを説明できるよう、指示文などの生成の過程を確認できる状態にしておくことを勧めています[3]。また、生成物を取引の対象にするときは、AIで生成したものであること、著作物性があるか、侵害していないかを確認した事実を、関係者に説明できるようにしておくことも勧めています[3]。
記録の項目は、日時、担当者、サービス名と設定、指示文、入力した資料の名称、出力、採用の可否と修正した人、の七つくらいで足ります。保存期間と保存場所も決めます。指示文や出力に個人データが含まれる場合は、記録そのものが個人データとして管理の対象になる点に注意します。全件を残すのが負担なら、取引の対象にする生成物だけを記録の対象にする方法もあります。
要素6 権利侵害などの疑いが出たときの対応手順
生成物が他人の権利を侵害しているのではないか、入力した情報が漏れたのではないか、という疑いが出たとき、誰が何をするかを前もって決めておきます。文化庁のチェックリストも、利用者が内部のルールを定め、侵害が起きた場合の対応手順を事前に想定しておくことを勧めています[3]。手順は次の五段で考えると整理しやすくなります。
疑いが出たときの社内手順(例)
- 1
情報共有
気づいた人が、決めておいた窓口へすぐ報告する。報告した人が不利にならないことも決めておく。
- 2
利用の停止
疑いのある生成物の公開、配信、納品を止める。入力した情報の流出が疑われるときは、そのサービスの利用も一時止める。
- 3
権利者などへの対応
窓口になる人と、内容を判断する人を決める。判断は事案ごとに異なるため、手順では担当と報告先を決めるにとどめる。
- 4
原因の解明
記録で、入力した資料、指示文、サービスの設定を確認する。記録がないと、ここで止まる。
- 5
再発の防止
ルールの区分、サービスの一覧、教育の内容を見直し、改訂の日付を残す。
ここで決めるのは、社内で誰が何を判断し、何を記録するかという手順です。相手方との交渉や、個別の事案の見通しの判断は、このページでは扱いません。
要素7 教育と周知
文書を作っても、読まれなければ使われません。AI事業者ガイドラインは共通の指針の一つに教育・リテラシーを挙げています[1]。新しく入った人への説明、サービスの規約が変わったときの連絡、ヒヤリハットの共有を、ルールの運用に含めます。難しい説明より、入力区分の表と、迷ったときの連絡先を一枚にまとめて渡す方が、現場では使われます。
要素8 相談窓口
入れてよい情報か迷ったとき、事故かもしれないと思ったときの連絡先を、人の名前ではなく役割で決めます。担当者が変わっても窓口が残るようにするためです。小さな事業では、代表者が窓口を兼ねても構いません。窓口が受けた相談は、後で区分や一覧を見直す材料になるため、件数と内容を記録しておきます。
要素9 見直し
ルールには見直しの時期も書いておきます。見直すきっかけは、使っているサービスの規約や機能が変わったとき、新しいサービスを使い始めるとき、法律やガイドラインが改訂されたとき、事故や疑いがあったときです。AI事業者ガイドライン自体、第1.0版が令和6年4月19日、第1.1版が令和7年3月28日、第1.2版が令和8年3月31日と、短い間に改訂されています[1]。一定の頻度で見直す場合は、年に一度程度を目安にし、改訂の日付と理由を残します。
公的指針との対応|ルールの各要素は何を参考にできるか
公的な資料は、ルールの根拠を示す目的でも、抜けを点検する目的でも使えます。ただし、それぞれの資料の位置づけは違います。AI事業者ガイドラインは、AIの開発者、提供者、利用者を対象にした指針で、ソフトロー(法的な拘束力はないが、事業者が自主的に参考にする指針や基準用語集)にあたります[1]。文化庁のチェックリストは著作権に限った資料で、他の法分野についてはAI事業者ガイドラインなどを見るよう案内しています[3]。また、同じチェックリストは、全部を実施しないと責任を負う、全部を実施すれば責任を問われない、という趣旨のものではないとも述べています[3]。
ルールの要素と、参考になる資料
| ルールの要素 | 参考になる資料 | 資料が言っていること(要旨) |
|---|---|---|
| 使ってよいサービス | AI事業者ガイドライン 利用者の取組 | 提供者が定めた利用上の留意点やサービス規約を守る |
| 入力区分(個人情報) | 個人情報保護委員会の注意喚起 | 利用目的の範囲内かを確認する。機械学習に使われないことなどを確かめる |
| 入力区分(機密情報) | AI事業者ガイドライン 利用者の取組 | 個人情報や機密情報を不適切に入力しない |
| 出力の確認 | 文化庁チェックリスト 利用者向け項目 | 利用前に既存の著作物と似ていないかを確認する |
| 生成過程の記録 | 文化庁チェックリスト | 指示文など生成の過程を確認できる状態にする。取引の対象にするときは説明できるようにする |
| 疑いが出たときの手順 | 文化庁チェックリスト | 利用者が内部のルールを定め、侵害が起きた場合の対応手順を事前に想定する |
| 教育と周知 | AI事業者ガイドライン 共通の指針 | 教育・リテラシーを共通の指針の一つに挙げる。関係者へ適正な利用方法を含む情報提供と説明をする |
要旨は自分の言葉で整理したものです。引用や詳細は、末尾の出典の原文で確かめてください。
法令・公的資料の確認点確認点として
AI事業者ガイドライン第1.2版が、AIの利用者に求めている取組(要旨)
利用者の取組として、次の六点が示されています[1]。提供者が定めた利用上の留意点やサービス規約を守ること。出力は精度とリスクを理解したうえで使うこと。個人情報を不適切に入力しないこと。機密情報を不適切に入力しないこと。関係者に、適正な利用方法を含む情報を提供し説明すること。出力を特定の個人や集団の評価に使うときは、AIを使っている旨を通知し、人の合理的な判断で説明責任を果たすこと。
共通の指針では、知的財産に関する法令や個人情報保護法などの関連法令を守ることも求められています。また、法令に定めがなくても、当事者どうしの契約でデータの利用を禁じていることがあるため、注意するよう促しています[1]。委託先が生成AIを使うときに、元の契約がそれを許しているかを確かめる必要がある、という論点の根拠になります。
第1.2版(令和8年3月31日)の本編を確認した内容です。別添(付属資料)は確認していないため、この表では扱いません。
個人情報保護委員会の注意喚起は令和5年6月2日の公表です[4]。本ページでは日付を添えて引いており、その後に追加の注意喚起が出ていないとは述べていません。また、法的な位置づけで見ると、これらの指針は参考資料です。ルールの文面に「ガイドラインを遵守する」と書くと、その版の内容が自社の約束になりますので、どの版を指すのかを版数と日付で特定して書くのが安全です。
AIで作った契約書や、生成AIの利用に関する契約・規約が争われた裁判例は、裁判所の裁判例検索で確認した範囲では見つかりませんでした[8]。確認できる裁判例はまだ少ないため、ルールを作るときは、法令の条文、公的な指針、契約の実務の三つを手がかりにすることになります。同じ観点で、AIサービスを提供する側の指針の読み方を扱っているページに、AI推進法と契約書・利用規約への反映があります。
作る手順|現状の洗い出しから運用まで
ルールを作る順序は、文書を書くことから始めない方がうまくいきます。先に、いま実際にどんなAIが使われているかを把握します。社内で使われているAIを一覧にすると、禁止したつもりのサービスが使われていたり、逆に誰も使っていない機能をルールに書いていたりすることに気づきます。
AI利用ルールを作る六つの手順
- 1
使っているAIの洗い出し
部署ごとに、使っているサービス、アカウントの名義、使い方、入力している情報の種類を聞き取る。個人のアカウントでの業務利用も含める。
- 2
扱う情報の区分
自社が扱う情報を、公開済み、社内限り、取引先から預かったもの、個人データ、認証情報などに分け、三段の入力区分に当てはめる。
- 3
取引先との約束の確認
契約書や覚書で、AIの利用に条件が付いていないかを確認する。条件があれば、ルールの区分に反映する。
- 4
文書の作成
九つの要素を、自社に必要な分だけ書く。区分表と連絡先を一枚の早見表にまとめる。
- 5
周知と教育
対象者に配り、説明する。受け取った日を記録に残す。迷ったときの窓口を伝える。
- 6
運用と見直し
記録を残し、相談の内容や事故の疑いを集める。サービスの規約や法令が変わったときに改訂する。
手順1と3が抜けたままルールを書くと、現場の実態とも契約とも合わない文書になりがちです。
確かめる問いと理由ルールを書く前に確かめる問い
いま業務で使っているAIは何か。個人のアカウントや無料版が含まれていないか。
一覧にしないと、禁止や許可の対象が決まらない。個人のアカウントは、学習の設定や保存場所を自社で管理できない。
そのAIに、どんな種類の情報を入れているか。
区分の線は、実際に扱う情報から引く。書類の見本だけで線を引くと、現場で使えない区分になる。
取引先から、AIの利用について条件や禁止を求められていないか。
契約で約束した条件は、社内ルールの最低ラインになる。ルールの方が緩いと、契約違反が起きる。
AIを使うことを、顧客や利用者に伝えているか。
自社のAI利用を告げる場合は、規約やプライバシーポリシーの記載とそろえる。詳しくは自社の生成AI利用の告知とPP記載のページ。
事故の疑いが出たとき、最初に連絡を受ける人は誰か。
初動の遅れは、被害の拡大と原因調べの難しさにつながる。役割で決めておく。
答えを書き出してからルールを書くと、文書が短くても、使える内容になります。
取引先との契約とルールの関係
取引先との契約が先にあって、社内ルールがそれに従う、という順序が基本です。契約で相手のAI利用を禁じたり条件を付けたりした場合、その内容を実行するための手順が社内ルールに入っていなければ、契約を結んだだけで運用が伴わない状態になります。契約の側の書き方は、禁止か条件付き許可かと、申告・記録・停止指示・違約金のページで扱っています。取引先のNDAとAIの関係は、NDAと生成AI・外部サービスへの入力も参考になります。SaaSの契約でAI機能を扱う側の条項は生成AI機能付きSaaSの契約条項に、保守契約で生まれる資料と生成AIの関係は保守契約で生まれる資料の権利と秘密保持・生成AIにあります。
取引先から、AI利用のルールの提出や説明を求められることもあります。そのときは、取引に関わる部分、つまり使うサービス、入力区分、出力の確認、記録、事故のときの連絡を整理して示します。社内の人事や評価に関する内部資料まで出す必要があるかは、契約の定め次第です。契約に「ルールの内容を確認できる」と書く場合は、見せる範囲も一緒に決めておくと、後で食い違いません。
再委託をする場合は、再委託先にも同じ条件を引き継ぐ必要があります。契約では「再委託先に同等の義務を負わせる」と書いておき、ルールの側にも、再委託先に渡してよい情報の区分と、再委託先のAI利用を確認する手順を入れます。契約と社内ルールの優先関係は、「契約の定めがルールに優先する」と書いておくと、運用が分かりやすくなります。
書き方の例(型として作り直した例) 社内ルールの書き方(契約の実務で見られる書き方の型。AIの下書きの点検記録から取り出したものではありません)
対象と禁止の範囲
入力する情報の線引き
疑いが出たときの対応
ルールが形骸化しないために|起きがちなことと自己点検
ルールがあっても、現場で使われなければ意味がありません。契約の実務で見られる、ルールが形骸化する典型は次のとおりです。実務で見られる型であり、特定の書類に見つかった誤りの件数を示すものではありません。
形骸化しやすい場面
- 禁止の範囲が広すぎて実際の作業と合わず、守られなくなる。翻訳や編集ソフトの機能まで禁止に入れてしまう場合などが典型。
- 使ってよいサービスの一覧が作られたまま更新されず、新しいサービスが一覧の外で使われる。
- 学習に使われない設定を条件にしたのに、設定を確認した記録がなく、誰も説明できない。
- 規約や機能が変わったのに、再確認の仕組みがない。確認した日付も残っていない。
- ルールを配っただけで説明しておらず、新しく入った人が存在を知らない。
- 相談窓口が個人名で決まっていて、担当が変わったあと誰に聞くか分からなくなる。
ルールを公開・配布する前の自己点検
- 適用される人、場面、AIの範囲(翻訳や要約を含むか)が書いてある。
- 使ってよいサービスの一覧と、確かめた項目(学習、保存、名義、規約)がある。
- 入力区分が三段で、認証情報や要配慮個人情報が「入れてはならない」に入っている。
- 取引先との契約で約束した条件が、ルールの区分に反映されている。
- 出力を人が確認する手順と、確認者が決まっている。
- 生成過程の記録の項目、保存期間、保存場所が決まっている。
- 疑いが出たときの五段の手順と、窓口が役割で書かれている。
- 周知の方法と、教育の機会が決まっている。
- 見直しの時期と、見直すきっかけが書かれている。
- 引用した指針の版数と公表日が書かれ、法的義務かのような書き方になっていない。
AIの利用を取り決める文書は、内容が似ていても、事業の実態に合わせて書き分ける必要があります。自社の下書きを見直すときは、書類の種類別チェックリストで、取引先とのAI利用の取り決めの確認点を先に確かめられます。用語に迷ったら用語集で意味を確かめてください。生成AIの成果物の権利については成果物の権利と表明保証、受講生や会員による教材の入力については教材のAI入力禁止のページで扱っています。
作った下書きを点検して仕上げたい場合の進め方は、点検と仕上げの流れにまとめています。料金は書類ごとの定額で料金表に載せており、相談は無料です。ご自身で整える場合も、このページの確認点だけで進められるように書いていますので、必要に応じて使い分けてください。
根拠・出典
- [1]AI事業者ガイドライン(総務省・経済産業省)第1.2版(令和8年3月31日)本編。第1.1版は令和7年3月28日、第1.0版は令和6年4月19日 https://www.soumu.go.jp/main_content/001064279.pdf(確認日:2026年10月23日)
- [2]文化庁「AIと著作権に関する考え方について」文化審議会著作権分科会法制度小委員会、令和6年3月15日 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf(確認日:2026年10月23日)
- [3]文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」令和6年7月31日 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/94097701_01.pdf(確認日:2026年10月23日)
- [4]個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」令和5年6月2日公表(別添1が注意喚起) https://www.ppc.go.jp/news/press/2023/230602kouhou/(確認日:2026年10月23日)
- [5]個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律) 2条3項・17条・25条・27条・28条(要配慮個人情報の定義・利用目的の特定・委託先の監督・第三者提供の制限・外国にある第三者への提供の制限)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057(確認日:2026年10月23日)
- [6]不正競争防止法 2条6項(営業秘密の定義)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000047(確認日:2026年10月23日)
- [7]著作権法 30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048(確認日:2026年10月23日)
- [8]裁判所 裁判例検索(全判例検索・全文検索)「生成AI」「AIを用いて作成」などの語で検索。AIで作った契約書の効力や、生成AIの利用に関する契約・規約の解釈が争われた事案は確認できなかった(裁判所サイトに全ての判決が載っているわけではない) https://www.courts.go.jp/hanrei/search1/index.html(確認日:2026年10月23日)
よくあるご質問
社内ルールだけで足りますか。
社内ルールは自社の中の運用を決めるもので、取引先との約束は契約で決めます。取引先から入力する情報や使うサービスについて条件を求められている場合は、契約の条項と社内ルールの内容がそろっているかを確かめます。契約に書いた条件を社内で守れない状態だと、契約上の責任の問題になることがあります。
従業員に守らせるにはどうしたらよいですか。
禁止の一覧だけを示すより、使ってよいサービスの一覧と、入力区分の早見表を渡す方が守られやすくなります。迷ったときの連絡先を役割で決め、受け取った日と説明した日を記録に残します。懲戒など人事の取扱いは、このページでは扱いません。
ルールはどのくらいの頻度で見直しますか。
公的な資料に決まった頻度の定めはありません。目安として年に一度程度の見直しを置き、そのほかにサービスの規約や機能が変わったとき、新しいサービスを使い始めるとき、法律や指針が改訂されたとき、事故や疑いがあったときに臨時に見直します。見直した日付と理由は残しておきます。
取引先からAI利用のルールを見せてほしいと言われたら、どうしますか。
取引に関わる部分、つまり使うサービス、入力区分、出力の確認、記録、事故のときの連絡を整理して示します。社内の内部資料をすべて出す必要があるかは、契約の定め次第です。契約に確認の権利を書く場合は、見せる範囲も一緒に決めておくと、後で食い違いません。
AI事業者ガイドラインは法的義務ですか。
AI事業者ガイドラインは、法的な拘束力のない自主的な指針(ソフトロー)です。一方で、個人情報保護法や著作権法などの法律は、指針とは別に適用されます。契約や社内ルールに「ガイドラインを守る」と書いた場合は、その範囲で自社の約束になりますので、版数と公表日で特定して書くのが安全です。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の書類が有効か無効か、どの条項を直すべきかは、事業の実際の流れ、取引の相手、書類の全体の構成によって異なります。書き方の例として紹介している内容は、型として作り直した一般的な例で、特定の事業者や書類を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月23日時点のものを確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 文化庁 / 個人情報保護委員会 / 法務省 / 消費者庁