このページの要点
- 生成AIの出力は、人の創作的な関与の程度で著作物に当たるかが変わる。「権利はすべて譲渡する」と書くだけでは、譲渡する権利がない部分が残ることがある。
- 権利が成立しない場合でも、約束した範囲で使えることを契約に書いておく。
- 第三者の権利を侵害した場合の責任は、確認義務・通知・停止・上限に分けて書く。
- 表明保証は、出力の正確性、入力する資料の権限、権利の非侵害を区別し、保証しないことも書く。
このページの結論
- 生成AIを使った納品物は、人の創作的な関与の程度によって著作物に当たるかが変わる。「権利はすべて譲渡する」と書くだけでは、譲渡する権利がない部分が残ることがある。
- 権利が成立しない場合でも約束した範囲で使えること、第三者の権利を侵害した場合の責任の分け方、AIの利用の申告と記録を、論点ごとに分けて契約に書く。
- 表明保証(契約の時点で一定の事実が正しいことを、相手に対して約束すること。違反したときの責任は契約で決める用語集)は、出力の正確性、入力する資料の権限、権利を侵害しないことを区別して書く。保証しないことも、書いておく。
成果物の権利を書いても、空振りする場面がある
生成AIを使った制作では、納品物が著作物(思想又は感情を創作的に表現したもの用語集)に当たるかどうかで、契約に書いた権利の取り決めが実際に働くかが変わります。著作権法では、著作物とは、思想や感情を創作的に表現したもので、文芸・学術・美術・音楽の範囲に入るものをいい、著作物を創作する人を著作者といいます[3]。文化庁の整理では、AIは著作者になれず、AIを使って創作した人が著作者になり得るとされています[1]。
生成物が著作物といえるかどうかは、人の創作的寄与(人が創作的な表現の形づくりに関わった程度用語集)の有無と程度によって、個々の生成物ごとに判断されると整理されています[1]。判断の要素として挙げられているのは、指示(プロンプト)の分量と内容、生成を繰り返した回数、複数の生成物からの選択の三つです。創作的な表現を具体的に示す指示は寄与を高め、アイデアにとどまる指示や、出てきたものを選んだだけの場合は影響しない、というのが資料の説明です[1]。人が創作的な加筆や修正をした部分には、通常、著作物性があります[1]。
契約の面で問題になるのは、納品物の大部分が、簡単な指示を入れて出力されたままのものである場合です。そのような納品物について「著作権はすべて委託者に譲渡する」と書いても、譲渡の対象となる著作権が存在しなければ、その条項は空振りします。著作権は全部または一部を譲渡できますが[4]、譲渡できるのは、著作権があるときです。
文化庁の資料は、著作物に当たらないものを著作物であると称して、ライセンス契約のような取引の場面で流通させると、契約上の債務不履行の責任[6]や、不法行為の責任を問われる可能性があると指摘しています[1]。ですから契約書では、納品物を「著作物である」と言い切るのか、「著作権が成立する限りで譲渡または許諾する」と書くのかで、後の責任の置き方が変わります。この違いを意識して条項を選ぶことが、このページの出発点です。
このページが扱うのは、納品物(成果物)の権利です。契約書の下書き自体に著作権が生じるかどうかは、ここでは判断しません。
契約の実務で見られる書き方と、問題の型
契約書や規約の中の生成AIの条項を読んでいくと、成果物の権利や責任を取り決める書き方には、いくつかの型があります。ここで示すのは、AIの下書きで見つかった誤りの事例ではなく、契約の実務で見られる書き方と、そこで起きがちな問題の型です。確認できた範囲では、生成AIの利用に関する条項を持つ書類のうち、成果物の権利や責任まで取り決めていたものが、おおむね13依頼者分ありました(記録の読み取りによる概数です)。
成果物の権利・責任を取り決めた書き方の型(確認できた範囲)
| 書き方の型 | 確認できた依頼者数 | 内容 |
|---|---|---|
| 出力の正確性を保証しない | 5 | 出力の正確性や目的への適合性は保証せず、最終的な判断は利用する側が行うとする。 |
| 人が確認して納品し、侵害の責任を受託者に集中させる | 3 | 出力を人が確認してから納品し、第三者の権利を侵害した場合の責任は受託者が負うとする。 |
| 権利が成立しない場合に備える | 3 | 出力に権利が成立しない場合や権利移転が認められない場合でも、許諾した範囲と同じ範囲で利用でき、受託者は妨げないとする。 |
| 入力する資料の正当な権限を表明保証させる | 2 | 発注者が、受託者に渡す資料をAIに入力する正当な権限を持つことを、表明し保証する。 |
| 著作物性が認められない可能性を理解し承諾する | 1 | 出力に著作物性が認められない可能性や、同一または類似の表現が他人にも出力される可能性を、発注者が理解して承諾する(例として)。 |
同じ書類が複数の型を含むことがあるため、合計は書類の数と一致しません。依頼者数が1の型は、傾向ではなく例として読んでください。
これらの書き方には、それぞれ起きがちな問題があります。いちばん多いのは、成果物の権利や著作物性を決めていない、あるいは「別途協議する」と先送りにしている書き方で、確認できた範囲では5依頼者分にありました。責任が受託者に集中している、または反対に全面的に免責されているという両極の書き方も、4依頼者分に見られました。
起きがちな問題(契約の実務で見られた型)
- 譲渡の対象とした著作権が、人の創作的寄与が乏しい出力であるためにそもそも存在しない。
- 既存の著作物に似た出力が出たときの責任の所在が書かれていない。
- 受託者に「全責任・全額補償」を課しながら、上限を置いていない。反対に、包括的に免責されている。
- 発注者がAIの使い方や入力する素材を指定した場合に、その指定が原因で起きた問題の分担が書かれていない。
- 「非侵害の保証」と「AIの出力についての非侵害の保証」が区別されておらず、後者が漏れている。
侵害の判断と、契約に反映できる点(文化庁の資料から)
成果物が他人の著作権を侵害するかどうかは、人が作る場合と同じように、類似性(既存の著作物の表現上の本質的な特徴が、生成物から感じ取れること用語集)と依拠性(既存の著作物を知っていた、または学習データに含まれていたなど、それをもとにしたといえること用語集)の両方があるかどうかで判断されます[1]。依拠性は、利用者が既存の著作物を知っていたか、学習データに含まれていたかなどで見られます。既存の著作物そのものや、そのタイトル、キャラクター名を指示として入力した場合は、依拠性が認められやすいとされています[1][2]。
侵害が認められた場合の効果も、資料に整理されています。差止めは、故意や過失がなくても請求でき、損害賠償は故意または過失が必要で、刑事罰は故意が必要とされています[1]。また、生成の段階の複製は私的使用などの範囲で許される場合があっても、生成物を配信したり譲渡したりする「利用」の段階では範囲を超えて侵害になり得る、と説明されています[1][2]。納品は、この利用の段階に当たります。
既存の著作物を指示として入力する場面では、著作権法30条の4が関係します。この条文は、作品の内容を味わうこと(享受)を目的としない利用を、必要な限度で認めています[5]。ただし、入力した既存の著作物に似た生成物を作らせる目的で入力する場合は、享受の目的が併存しているとされ、30条の4が使えず、権利者の許諾が必要な場合があるというのが、チェックリストの説明です[2]。
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。(ただし書以下は省略)
文化庁のチェックリストは、AIを業務で使う利用者に向けて、いくつかの取組を挙げています。侵害が起きた場合の対応手順を内部ルールとして定めておくこと、生成物を利用する前に既存の著作物と似ていないかを検索などで確認すること、取引の対象にするときはAI生成物であること・著作物性・侵害の確認をしたことを説明できるようにしておくこと、生成に使ったプロンプトなど生成の過程を確認できる状態にしておくこと、などです[2]。同じ資料は、これらをすべて実施しなければ責任が生じる、あるいはすべて実施すれば責任を問われない、という意味ではないとも明記しています[2]。
契約書の書き方に引き直すと、この取組は「AIの利用の申告」「生成過程の記録の保存」「類似性の確認」「侵害が疑われたときの連絡と停止」といった条項になります。法的な義務としてではなく、後で説明できる状態をつくるための約束として、契約に入れる例が見られます。どこまで入れるかは、受託者の立場か発注者の立場か、納品物がどう使われるかによって変わります。
条項の論点ごとの書き方と直し方
ここからは、論点ごとに条項の組み立てを示します。条文例は考え方を示すための短いもので、そのまま使える完成した契約書ではありません。当事者の立場や取引の実態に合わせて、語句や範囲を決める必要があります。
権利の帰属と、権利が成立しない場合の備え
まず決めるのは、権利が成立する部分と、成立しない部分とで、取り決めを分けることです。成立する部分は、これまでどおり譲渡または許諾の対象にします。成立しない部分は、権利の移転ではなく「約束した範囲で使えること」を契約で確保し、受託者がその利用を妨げないと書きます。確認できた範囲では、この書き方を置いたものが3依頼者分ありました。
権利の帰属(権利が成立しない場合の備え)
- 受託者は、本件成果物のうち、著作権その他の権利が成立する部分について、検収完了時に、その権利を委託者に譲渡する。
- 前項の権利が成立しない部分、または権利の移転が認められない部分についても、委託者は、本契約で許諾した範囲と同じ範囲で当該部分を利用することができ、受託者は、これを妨げない。
「許諾した範囲」を別の条項(利用の範囲・期間・地域など)で決めておくことが前提です。範囲が決まっていないと、この条項は働きません。
AIの利用の申告と、生成過程の記録
次に、受託者が生成AIを使ったかどうか、使ったならどの部分にどの程度かを、納品のときに申告する条項です。文化庁のチェックリストが勧める「生成の過程を確認できる状態」[2]に対応するのが、プロンプトと出力の保存です。申告と記録の義務がない、あるいはあっても実効性が弱いという書き方が、確認できた範囲では4依頼者分にありました。
AIの利用の申告と記録
- 受託者は、本件成果物の作成に生成AIを利用した場合、納品時に、利用した部分、利用したサービスの名称および入力した指示の概要を、書面または電磁的方法で委託者に通知する。
- 受託者は、前項の指示および出力の記録を、納品から◯年間保存し、委託者から合理的な理由をもって求められたときは、委託者に開示する。
記録に取引先の秘密情報が含まれる場合は、開示の範囲と方法を別に定めておくと、秘密保持の条項と衝突しません。
第三者の権利を侵害した場合の責任の分担
受託者の立場では、AIの出力に似た既存の著作物が含まれていた場合に、全責任と全額の補償を課されることがあります。発注者の立場では、反対に、受託者が包括的に免責される書き方になっていることがあります。どちらの極端も避けて、受託者が確認すべきこと、確認しても分からなかったものの扱い、補償の上限、を分けて書くのが、組み立ての基本です。
第三者の権利侵害の責任分担
- 受託者は、本件成果物を納品する前に、合理的な範囲で、既存の著作物との類似の有無を確認する。
- 本件成果物が第三者の権利を侵害するとの主張があったときは、当事者は、直ちに相互に通知し、必要に応じて当該部分の利用を停止する。
- 受託者が前項の確認を尽くしたにもかかわらず知り得なかった第三者の権利侵害については、その責任の範囲および上限を、別に定めるところによる。
「別に定める」とする場合は、実際に定めた条項を置いてください。先送りのままにすると、決めていない書き方(先ほどの問題の型)になります。
ここで、表明保証と、民法に定められた契約不適合の責任との違いにも触れておきます。民法は、売買で引き渡された目的物が契約の内容に適合しないときの、買主の追完請求などを定めています[9]。これに対して表明保証は、法律に決まった形があるわけではなく、当事者が契約で「この事実は正しい」と約束し、違反したときの責任(補償、解除、上限など)を契約で組み立てるものです。AIの出力は、この二つの責任の隙間になりやすいので、どちらでどこまでを受け止めるのかを、条項の上で見えるようにします。
入力する資料の正当な権限の表明保証
発注者が受託者に渡す資料(原稿、写真、顧客のデータなど)を、受託者が生成AIに入力して作業に使うことがあります。この入力が、資料の権利者との関係で許されているかどうかは、発注者が知っていることです。そこで、入力する資料について正当な権限を持つことを、発注者が表明保証する書き方が、確認できた範囲では2依頼者分にありました。
入力する資料の権限の表明保証
- 委託者は、受託者に提供する資料について、受託者が本件業務のために生成AIに入力して利用することを含め、これを提供する正当な権限を有することを表明し、保証する。
- 委託者は、生成AIへの入力を認めない資料があるときは、あらかじめ書面でその旨を受託者に示す。受託者は、示された資料を入力しない。
個人情報や取引先の秘密情報を含む資料の入力の取り決めは、生成AIに入力してよい情報・いけない情報のページで扱います。
出力の正確性と、人の確認
出力の正確性や目的への適合性を保証しないという書き方は、確認できた範囲で5依頼者分と、この論点でいちばん多く見られました。ただ、正確性を保証しないとだけ書くと、「では誰が内容を確かめるのか」が見えなくなります。出力は保証しない代わりに、受託者が内容を確認して必要な修正を加えたうえで納品する、という確認の義務を並べて書くと、バランスが取れます。
納品物を一般の消費者に提供する場合は、別の注意が要ります。消費者契約法8条1項1号は、事業者が債務不履行の損害賠償責任をすべて負わないとする条項を、無効としています[8]。法人どうしの取引では、この条文は直接には働きませんが、責任を全面的に免れる書き方は、バランスを欠くものとして交渉の場面で問題になりやすいことは、変わりません。
書き方の例(型として作り直した例) 成果物の権利と責任
権利の帰属
侵害の責任
入力した資料
出力の正確性
作品や素材を、AIの学習や生成に使わせない取り決め
成果物の権利とは向きが逆になりますが、同じ生成AI条項の中に、権利者を守る型があります。著作物の許諾契約、写真の利用許諾、実演の許諾、共同研究、マネジメントの契約などで、相手方がこちらの作品や素材をAIの学習に使うこと、あるいは生成AIを使って制作することを禁じる書き方です。確認できた範囲では7依頼者分にありました。
この型には、向きが二つあります。ひとつは、自分の作品や素材を、相手方にAIの学習用データとして使わせないという向きです。もうひとつは、相手方に依頼する制作で生成AIを使わせないという向きで、色調の補正のような補助的な編集に限って、事前の承諾があれば認める例も見られました。
契約の実務で見られる書き方書き方と問題の型として
作品・素材のAI学習や、相手方の制作での生成AIの利用を禁じる条項
書き方の型は、「乙は、本作品を、AIの学習用データ、データセット、生成AIの訓練その他これらに類する目的に利用してはならない」というものです。制作の側を縛る型では、「乙は、本作品の制作に、生成AIを用いて画像や文章を作ることをしてはならない。ただし、補助的な編集に限り、甲の事前の書面による承諾を得て行うことができる」と書かれます。
起きがちな問題として、AI生成コンテンツの権利の帰属を「個別の案件ごとに別途協議する」と先送りにしている例(1依頼者分)、肖像や声のAI利用について、誰の事前の承諾が必要かの書き方が取引の実態と逆になっている例(1依頼者分)、違約金の最低額が報酬と釣り合わず、過大として減額または一部無効とされるおそれがある例(1依頼者分)がありました。
生成AIの利用に関する条項を持つ書類のうち、権利者を守る型が7依頼者分。個々の問題は1依頼者分ずつの例です。
違約金の過大の問題は、民法の賠償額の予定(債務の不履行があったときに支払う損害賠償の額を、あらかじめ契約で決めておくこと用語集)(420条)と公序良俗(90条)の考え方で検討します[7]。民法420条は、債務不履行があったときの賠償額を当事者があらかじめ決めておくことを認め、違約金を決めた場合は、その額を賠償額の予定と推定します[7]。相手が消費者である場合は、消費者契約法9条1号が、解除に伴う違約金のうち、同じ種類の契約が解除されたときに事業者に通常生じる損害(平均的な損害)を上回る部分を無効とします[8]。この9条1号は「解除に伴う」違約金に限られるので、解除に伴わない単純な契約違反の違約金は、民法の考え方や消費者契約法10条で検討します[8]。
この論点に関係する他のサイトの記事として、制作で生成AIを使うかどうかの取り決めは制作での生成AIの使用と契約、著作権を譲渡する契約の書き方は著作権の譲渡契約書と著作者人格権の不行使、動画の音源や素材の扱いは動画編集のBGM・効果音・素材のライセンス、漫画の制作でのアシスタントへの取り決めは漫画制作と生成AIの契約条項に、それぞれ詳しく書かれています。AI導入や開発の納品物の権利はプロンプト・設定・テンプレートの権利、法人向けのAI機能付きSaaSの条項は生成AI機能付きSaaSの契約条項のページが扱っています。
見つけ方:契約書を読むときの問い
成果物の権利の条項は、文言を一語ずつ読むよりも、「この条項は、実際に起きる場面で働くか」を問うほうが、問題を見つけやすくなります。次のチェックリストは、契約書を読むときの問いです。自分の立場が受託者か発注者かによって、どの項目が重いかは変わります。
成果物の権利の条項を読むときの確認点
- 生成AIを使う作業があるか、あるなら、使うことを契約が認めているか(禁止しているか)を確かめた。
- 譲渡の条項が、権利が成立する部分に限る書き方になっているか。成立しない部分の利用が確保されているか。
- 「許諾した範囲」が、別の条項で具体的に決まっているか。
- 第三者の権利を侵害した場合の責任が、確認義務・通知・停止・上限に分かれて書かれているか。
- 「別途協議」と書いて先送りにした論点が残っていないか。
- 発注者が渡す資料をAIに入力することについて、権限の表明保証と、入力させない資料の指定の方法があるか。
- AIの利用の申告と記録の保存が、誰が・いつ・何を、まで書かれているか。
- 出力の正確性を保証しないと書いてある場合に、人が内容を確認する義務が並んでいるか。
- 肖像や声などを使う場合に、誰の承諾が必要かが、取引の実態と合っているか。
- 違約金の額や根拠が、報酬や損害の見込みと釣り合っているか。
確かめる問いと理由成果物の条項について、先に確かめておきたい問い
この納品物の中で、人が内容を決めて書いた(描いた)部分と、AIの出力をほぼそのまま使った部分は、どのくらいの割合か。
権利が成立しない部分の大きさによって、「権利の成立しない場合の備え」の重さが変わるから。
納品物を、受け取った側はどう使うのか。社内利用か、販売や配信か。
利用の範囲が広いほど、第三者の権利を侵害した場合の影響と、責任の分担の重さが大きくなるから。
生成に使うサービスの利用条件では、出力の利用や権利について、どう書かれているか。
契約の内容と、サービス側の条件が食い違うと、約束を守れない場面が生まれるから。
プロンプトや出力の記録を、誰が、どこに、どれだけ保存できるか。
申告と記録の条項が、実際の運用で守れる内容かどうかを確かめるため。
裁判例について
AIで作った契約書の有効性が争われた事案や、生成AIの利用に関する契約・規約の解釈が争われた事案について、裁判所のウェブサイトの裁判例検索で複数の言葉で全文を検索しましたが、確認できた裁判例は見当たりませんでした。商用の判例データベースや雑誌などでの確認はしていませんので、確認できる裁判例はまだ少ない、というのが事実に即した書き方です。
参考として、AIの成果物の権利に近いところで、特許の発明者についての判決があります。特許出願の発明者の欄に人工知能の名称を記載した出願が却下された処分の適否が争われ、東京地方裁判所は令和6年5月16日に[11]、知的財産高等裁判所は令和7年1月30日に[12]、いずれも処分を適法としました。これは特許法にいう「発明者」についての判断であって、著作権法上の著作物や、契約の効力についての判断ではありませんから、著作権の問題に広げて読むことはできません。
点検と仕上げについて
成果物の権利や責任の条項は、取引の実態によって正解が変わるため、一般的な説明だけでは書ききれない部分が残ります。点検や仕上げの進め方は、点検と仕上げの流れに、渡していただく資料とあわせて整理しています。料金は書類1通ごとの定額で、ページ末尾の案内の枠から料金表を開けます。同じテーマの周辺は、権利条項と個人情報の扱い、業務委託の生成AI利用条項、申告・記録・停止指示・違約金のページにもあります。
根拠・出典
- [1]AIと著作権に関する考え方について文化庁(文化審議会著作権分科会法制度小委員会)、令和6年3月15日(本文46頁) https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf(確認日:2026年10月23日)
- [2]AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス文化庁著作権課、令和6年7月31日(44頁) https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/94097701_01.pdf(確認日:2026年10月23日)
- [3]著作権法 2条1項1号・2号、17条1項(著作物・著作者の定義、著作者の権利)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048(確認日:2026年10月23日)
- [4]著作権法 61条1項・63条1項・2項(著作権の譲渡、著作物の利用の許諾)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048(確認日:2026年10月23日)
- [5]著作権法 30条の4(享受を目的としない利用)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048(確認日:2026年10月23日)
- [6]民法 415条1項(債務不履行による損害賠償)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(確認日:2026年10月23日)
- [7]民法 90条・420条(公序良俗、賠償額の予定)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(確認日:2026年10月23日)
- [8]消費者契約法 8条1項・9条1号・10条(責任免除条項、違約金条項、利益を一方的に害する条項)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061(確認日:2026年10月23日)
- [9]民法 562条1項(買主の追完請求権)e-Gov法令検索(法令API)で現行条文を確認(基準日:2026年10月23日) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(確認日:2026年10月23日)
- [10]AI事業者ガイドライン総務省・経済産業省、第1.2版、令和8年3月31日(本編42頁)。法的拘束力のない自主的な指針 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ai_network/02ryutsu20_04000019.html(確認日:2026年10月23日)
- [11]東京地方裁判所 令和6年5月16日判決(令和5年(行ウ)第5001号 出願却下処分取消請求事件)裁判所ウェブサイトの裁判例検索で掲載を確認 https://www.courts.go.jp/hanrei/92981/detail7/index.html(確認日:2026年10月23日)
- [12]知的財産高等裁判所 令和7年1月30日判決(令和6年(行コ)第10006号 出願却下処分取消請求控訴事件)裁判所ウェブサイトの裁判例検索で掲載を確認。上告受理申立ては令和8年3月4日に不受理とされたと同サイトに記載 https://www.courts.go.jp/hanrei/93757/detail8/index.html(確認日:2026年10月23日)
よくあるご質問
生成AIが作ったものに、著作権はありますか。
一律にある・ないとは言えません。文化庁の整理では、AIは著作者になれず、人が創作的に関わった程度(指示の内容、加筆修正、選択など)によって、著作物といえるかが個別に判断されます。納品物のどの部分に人の創作が入っているかによって、答えが変わります。契約では、「著作権が成立する部分」と「成立しない部分」を分けて書いておくと、どちらの場合でも取り決めが働きます。
納品物が生成AIで作られたものだと、相手に知らせる必要がありますか。
このページで確認した範囲では、納品物にAIを使ったことの開示を一般に義務づける条文は取り上げていません。一方、文化庁のチェックリストは、AI生成物をライセンス契約などの取引の対象にするときは、AI生成物であることや著作物性などを関係者に適切に説明することを求めています。契約に申告の条項があれば、それに従います。後の食い違いを避けるために、申告の方法と記録の保存を契約に書く例が見られます。
生成AIが出した表現が、たまたま他の人の作品と似ていた場合はどうなりますか。
文化庁の整理では、侵害になるかどうかは類似性と依拠性の両方で判断され、既存の著作物を知らず、学習データにも含まれていないのであれば、偶然の一致は侵害にならないとされています。ただ、学習データに含まれていた著作物に似た生成物が出た場合は、通常、依拠が推認され得るとも説明されています。契約では、納品前の確認、疑いが出たときの通知と停止、確認を尽くしても知り得なかった場合の責任の扱いを決めておきます。
人の顔や声を生成AIで使う場合、誰の承諾が必要ですか。
人の肖像や声を使うときは、その本人や、権利を管理する人の承諾が問題になります。契約書では、承諾を得る義務を負う側と、得たことを確認する側が、取引の実態と逆になっていないかを一文ずつ確かめます。点検の実務では、承諾の主体の書き方が逆になっていた例が見られました。個別のケースで必要な承諾の範囲は、使い方によって変わります。
表明保証と、契約不適合責任は、どう違いますか。
契約不適合責任は、民法に定められた、引き渡された目的物が契約の内容に適合しないときの責任(追完の請求など)で、契約で調整できる部分があります。表明保証は、当事者が契約の中で「この事実は正しい」と約束し、違反したときの補償や解除などを契約で組み立てるものです。AIの出力は、どちらの責任で受け止めるのかが曖昧になりやすいので、条項の上で分けて書いておくと安心です。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の書類が有効か無効か、どの条項を直すべきかは、事業の実際の流れ、取引の相手、書類の全体の構成によって異なります。書き方の例として紹介している内容は、型として作り直した一般的な例で、特定の事業者や書類を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月23日時点のものを確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 文化庁 / 個人情報保護委員会 / 法務省 / 消費者庁